動物園マイスター制度(仮称)について
昨年の旭川青年会議所創立55周年記念シンポジウムのなかで提言された「旭山動物園マイスター制度(仮称)」の構想が、着実に実現に近づいています。
フィーバーの陰で
この冬の開園中も大盛況だった旭山動物園。関連書籍が続々と登場したり、旭山再生の歩みを描いたテレビドラマが放送されるなど、注目度はまったく衰えていません。
でも知っていますか? 入園者数の好調な推移と裏腹に、付近の駐車場では乗用車の数が意外と伸びていません。いまや動物園の入場客は、バスで来園する市外、道外からの観光客が中心です。「あんなに話題になった動物園だけど、もう何年も行っていない」と語る市民が多いのも事実。東京タワーに登る東京都民があまりいないのと同様、旭山動物園も市民が行かない観光スポットになってしまうのでしょうか。
![]() 2月12日に動物園内で開かれたスタッフ説明会 |
動物園のあり方を変えるきっかけになりそうなのが、旭川青年会議所がNPO法人旭山動物園くらぶ、社団法人旭川観光協会とともに、旭山動物園の協力も得ながら準備を進めている「旭山動物園マイスター制度」です。簡単に言えば、市民ボランティアスタッフが動物園をサポートする新しいしくみということになるでしょうか。
過去の経験生かせるはず
マイスター制度担当の前田光理・副理事長によれば、「現時点での構想では、この制度の下のボランティアの仕事は▽お年寄りや体の不自由な人が来園した際にサポートする『介護・福祉』、▽動物園内で観光情報センターで、周辺地域の観光情報を提供する『インフォメーション』、▽動物園内を案内する『ガイド』の3種類。いずれも、ガイダンスや勉強会、実践研修などを実施し、資格認定を経たうえで活躍していただくことになります」
山の斜面に広がる旭山動物園は、お年寄りや体の不自由な人にとって決して動きやすい場所ではありません。たとえば車いすで急な斜面を登るには、押したり引っ張ったりしてくれる力の強い人が必要。また、園内に多数の表示があるとはいえ、トイレやレストランなどの設備がどこにあるのかを調べるのも困難な状況です。観光バスが到着し、ツアー客がトイレを探している間に出発の時間になってしまうケースも。旭山動物園はいまや外国にも名を知られたスポットなのに、外国語で十分な情報を提供できているかどうかという問題もあります。また、せっかくたくさんの観光客が旭山動物園を訪れても、観光情報を園内で発信して、旭川や周辺地域に導くしくみは、これまで存在していませんでした。
最も単純な対応策は、動物園の職員、つまり市の職員を増やすということですが、いかに動物園が人気スポットだとはいえ、市の厳しい財政事情を考えれば現実的な選択肢ではありません。そこで期待されるのが、マイスター制度を通じた市民による旭山動物園のサポート。ボランティア・スタッフが動物園をサポートすることにより、体の不自由な人でもアザラシが垂直に泳ぐ様子を気軽に見に来ることができるようになり、トイレやレストランが簡単に探し当てられるようになるかもしれません。「いつかは、目の不自由な人にも動物を感じてもらえるようにしたいですね」。たとえば、いまはどの町でこういうイベントがある、この価格帯のホテルはここにあるといった情報を提供すれば、動物園という「点」を中心にした、広い「面」で商機が膨らむはずです。
「ガイド」の先にあるのが、「動物マイスター」と呼ばれる役割です。ペンギン、ホッキョクグマなど動物の種類ごとに分かれた講習を受け、試験合格を経て「ペンギンマイスター」「ホッキョクグマ」などに認定されれば、その動物について入園者を前に一定の説明を行うことができるようになるかもしれません(「プロ」である飼育展示員が行っている解説と同じ内容、というわけにはいきませんが)。
ただ、この制度の目的は、急増した観光客への奉仕に置かれているわけではありません。「もともと動物園には教育という目的があったはず。一過性の観光客よりも、動物園を訪れる旭川市民を増やして、動物の成長を一緒に楽しめるようにしていきたいですね」と、前田副理事長は強調します。
![]() 説明会の後のガイダンスで動物園を案内してくれた坂東元・副園長。トークが面白いのは、豊富な知識に裏打ちされているからこそ。 |
動物園の応援団として、動物園が不人気施設だったころから地道な活動を続けてきたのが旭山動物園くらぶです。動物や動物園についての知識、愛情、熱意に関しては、旭川青年会議所が「くらぶ」にかなうはずもありませんが、過去、市民とともに多くの活動に関わる過程で私たちが蓄積してきたノウハウや経験がきっと生きるはずです。
園長も期待
昨年11月3日には小菅正夫・旭山動物園長、多田ヒロミ・旭山動物園くらぶ理事長、稲村健蔵・旭川観光協会会長をお招きしてシンポジウム「みんなで夢見よう、旭山動物園〜レッZOO GO」が開かれました。この席上、小菅園長も「体の不自由な人が来園しても、動物園の職員が対応するのは不可能。ある病院から『入院患者が一度でいいから動物園のペンギンを見たいといっている』と連絡がありました。結局実現せず、その方は亡くなったと聞いています。せめて4人の介助者がいれば来てもらえたはず」と語り、マイスター制度への期待を示していました。
さて、この動物園マイスター制度、新たな取り組みだけにさまざまな「産みの苦しみ」があったようですが、近くスタッフの募集を開始、4月末に予定される夏季開園のスタートと同時に実施される予定です。当面は経験豊富な動物園くらぶのメンバーが中心的な役割を果たし、並行してガイダンスや研修を通じて新規に応募してくれた人の知識や能力を高めていくことになりそうです。

